2011年12月30日金曜日

59:Vorlesung von Dr.Matsui in Berlin. ベルリンでの松井英介医師の講演と、画期的なNHKレポートのお知らせ


  Liebe Freunde, sehr geehrte Damen und Herren,
zum Jahreswechsel sende ich Ihnen alle guten Wünsche. Anliegend finden Sie eine Ankündigung einer Vorlesung zum 4. Januar, die ich Ihnen empfehlen möchte.
 Herzliche Grüße

E. Eichhorn 


 このアイヒホルン教授からの連絡にあるように、新年の1月4日に、ベルリン工科専門大学の「ヒロシマ・ナガサキ平和講座」の一環として、ドイツの公共放送でもフクシマ事故の内部被曝についてしばしば登場されている松井英介医師の講演が、以下のように行われますのでお知らせいたします。テーマはこれから日本で最も大きな問題とならざるを得ない低線量被曝による健康被害です。
講演と質疑はドイツ語でおこなわれますが、基本的には学生を相手の講義ですから、一般の方にも理解できる内容となるはずですので、こぞっておいで下さい。
松井医師については、第38回の松井英介医師の紹介をご覧ください。

また、12月28日に放映されたNHKの「追跡!真相ファイル、低線量被曝、揺らぐ国際基準」を下に貼付けておきましたのでぜひご覧ください。この大きな問題をここまで踏み込んだ報告は日本では初めてのことであると松井医師たちもおっしゃっています。
ドイツなど国際間ではいまや周知の事実であるにもかかわらず、日本政府と原子力村が相も変わらず錦の御旗にして大声で振り回しているICRP/国際放射線防護委員会の国際基準が、世界の核原発ロビーによる「科学的根拠のない政策的/政治的判断である」ことが、この番組では、それを決定した元委員/現名誉委員らの証言で裏付けられています。
すなわちフクシマのヒバクシャは、彼らの核原発政策の犠牲のモルモットにされていることの証拠でもあります。このような現実を絶対に許してはなりません。

画期的なレポートをされたNHKの取材チームに感謝します。
世界に広まればNHKの大変な名誉になることですから、どうか著作権を理由に消さないでくださいね。これは各国語に翻訳して広めるべきです。

 梶村
---------------------------------------------------------------------------------------------
                                             ANKÜNDIGUNG


Prof. Eugen Eichhorn
Berlin, Dezember 2011


Im Rahmen des Hiroshima-Nagasaki Peace Study Courses 2011w an der Beuth Hochschule für Technik Berlin (BHT Berlin), University of Applied Sciences,

spricht

Herr Dr. Eisuke MATSUI aus Gifu, Zentraljapan

 zum Thema

Überlegungen nach Fukushima - schädigen ionisierende Strahlen unsere Gesundheit mehr als offiziell anerkannt ?
Zeit: Mittwoch, 4. Januar 2012, 10 Uhr
Ort: BHT Berlin, Lütticher Straße 38, 13353 Berlin
Hörsaal A233
BVG-Verbindung: U-Bahnhöfe Amrumer Straße und Leopoldplatz

Die Vorlesung findet in deutscher Sprache statt.

Herr Dr. Matsui ist Radiologe und Facharzt für Lungenkrankeiten. Er arbeitet seit vielen Jahren am Gifu Research Institue for Environmental Medicine. Anfang der 1980er Jahre hat er an der bekannten Berliner Lungenklinik Am Heckeshorn studiert und gearbeitet. Zahlreiche Publikationen über Lungenkrebser­krankungen, speziell über Low-Dose-Effekte. Schon vor der Natur- und Reak­torkatastrophe vom 11. März dieses Jahres gehörte Herr Dr. Matsui zu den kritischen Stimmen aus der Reihen der japanischen Ärzteschaft.
Seine Bewertung der Ereignisse seit dem 11. März hat er in einem Buch veröffent­licht, dessen Titel lautet:


"Un­sichtbarer Terror. Innere Strahlungsexposition."

----------------------------------------------------------------
NHKレポート 
低線量被曝 揺らぐ国際基準  

下は削除されていますので→ここをクリックして下さい。



低線量被ばく_揺らぐ国際基準_追跡!真相ファイル von gomizeromirai

2011年12月26日月曜日

58:内閣府原子力委員長の「最悪のシナリオ」と最初の「警告メール」

 毎日新聞がよりによってクリスマスイヴの贈り物のように12月24日に掲載した「最悪のシナリオ」の記事については考えさされることが多々あります。
 記事によれば「事故から2週間後の3月25日、菅直人前首相の指示で、近藤駿介内閣府原子力委員長が作成し、菅氏に提出していた」とのことです。つまり、提出されてから9ヶ月を経てようやく報道されたことになります。20頁あるとされるこの原資料の即時公表が望まれます。

日本の原子力政策の中枢が事故当初より、このようなシナリオを持っていたことは、専門家としては至極当然のことです。原子力村の隠蔽の本質(体質ではない)をよく知っているわたしなどは「何をいまごろになって、こっそり出して」と、彼らの姑息極まる犯罪的本質にむしずが走り、この「原発中毒」連中がいまだに政府の原発政策中枢に居座り続けて事態の矮小化に励んでいることに呆れ返り、危機感がつのるばかりです。

近藤委員長の片腕の鈴木達治郎氏の言動については;
21:原発中毒の人々と「人生の嘘」(1)
http://tkajimura.blogspot.com/2011/08/blog-post_28.html

またこの連中の最近の活発な動きについては、 「田中龍作ジャーナル」の最近の報告:
【検証】細野大臣は「低線量被曝WG」の御用学者らに寄ってたかって洗脳された
http://tanakaryusaku.jp/2011/12/0003372

を、参考にして下さい。本来ならばとっくの昔に公職追放になってしかるべき、原発推進参謀本部の「戦犯」たちの影響力は残念ながら、日本では健在です。

とはいえ、この報道で「そうだったのか」と今頃になって、背筋がふるえている人たちも多いことでしょう。わたし自身は、日本時間の3月12日の未明にはこのような「最悪のシナリオ」によって警告を発しています。ここで、その背景を記録から再現しておきましょう。

それを紹介する前に以下記事の一部を引用します:
福島第1原発:「最悪シナリオ」原子力委員長が3月に作成
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111224k0000e040163000c.html

最悪シナリオは、1〜3号機のいずれかでさらに水素爆発が起き原発内の放射線量が上昇。余震も続いて冷却作業が長期間できなくなり、4号機プールの核燃料が全て溶融したと仮定した。原発から半径170キロ圏内で、土壌中の放射性セシウムが1平方メートルあたり148万ベクレル以上というチェルノブイリ事故の強制移住基準に達すると試算。東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた同250キロの範囲が、避難が必要な程度に汚染されると推定した。

また、同記事に掲載されている「菅直人前首相の指示で、近藤駿介内閣府原子力委員長が試算、作成した「最悪シナリオ」の強制移住地域の範囲」の図面がこれです。



さらに毎日新聞はこれに関する同日の記事で:

福島第1原発:「最悪シナリオ」…防災指針、再考が必要

 当時の菅直人首相は退任後のインタビューで「最悪の場合、避難対象は首都圏を含め3000万人。国として機能しなくなるかもしれないと思った」と証言している。

 現実的には半径170キロ圏内の防護対策や3000万人の避難などは極めて困難だ。原発事故がさらに深刻な事態に進んだ可能性がある以上、原子炉の集中立地や高所に燃料プールを備えた構造上の弊害、防災指針を考え直す必要がある。

と当然の防災指針の再考を主張していますが、構造上の弊害を考慮しただけでも、日本の全ての原発は即時廃炉にせざるをえないことは明らかです。
  http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111224k0000e040163000c.html

また、前回の第57回で紹介したシュピーゲル誌の専門家が4号機の燃料プールの危険性の指摘も、これが現在も大きな危険であり続けていることも想起して下さい。
原発二基分の燃料が入って露天状態のプールの危険性は、ドイツの専門家も事故発生直後からくり返し強調しています。その一例としてプルーグバイル氏らのドイツ公共放送でのインタヴューを挙げておきましょう:

Experten zur Fukushima Katastrophe_ARD_Tagesschau 16/17.3.2011
http://www.youtube.com/watch?v=NJhGxhQV0fg

つまり、フクシマの深刻な危機はいまだに継続しているというのが、世界中の大半の専門家の見解です。
ひとつ間違えば、いつ何時手の付けられない状態になることが想定されています。
それを「収束宣言」するのは、田中龍作氏が東京から報告されているように、全く原発中毒者に「洗脳されている」者の言動です。

最初の警告メールの背景

さて、わたしが東北と東京近郊の親族、友人の安否を確認しつつ、次のように最初の警告メールを出したのは、中央ヨーロッパ時間の3月11日19時19分(日本時間12日03時19分)です:

ーーーーーーーーーーー
From:     
Subject: 放射能漏れの場合/子供と母親の疎開
Date: 2011年3月11日 19:19:22:GMT+01:00
To:    

梶村です。
(緊急時のため複数の投稿をご容赦下さい)

福島原発の一基がいよいよ危なくなっています。原子炉爆発を回避するために
放射性物質を意図的に外気に出すことを検討しています:


http://www.cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=995

風向きにも寄りますが汚染は不可避ですし、炉心溶融が急速に進むと予想できない事態になります。
ここ24時間が危ないでしょう。

あわてることは禁物ですが、その場合は、近くのひとはもちろん、東京近郊でお住まいの方は、子供と母親はできるだけ遠くに疎開させることを準備された方が良いでしょう。子供の被曝は悲惨です。
関西は比較的安全でしょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーー
ここでわたしの判断の根拠として挙げているのは、原子力情報資料室の以下の情報です。
これも挙げておきましょう:

ーーーーーーーーーーーー
地震・事故:福島原発 : [訂正]福島第一1号炉でシビアアクシデント(苛酷事故)か
投稿者: 原子力資料情報室 投稿日時: 2011/3/12 2:31:21

東京電力らが3月11日22:00に行なった2号炉に対する解析によると,24:50に燃料溶融が起こり,27:20には原子炉格納容器が設計最高圧に達する可能性があり,格納容器全体が破壊する可能性があるため,格納容器ベント(放射性ガス排出用配管)をつかって,放射性物質を環境中に放出することを検討している.

実際には,1号炉で格納容器内の蒸気圧が通常の400kPaから設計値を超える600kPaにまで高まっており,かなりまとまった量の放射性物質を放出する危険性がある.

東京電力らによる2号炉のシミュレーション:
(実績)14:47 原子炉スクラム(RCIC[原子炉隔離時冷却系]起動)
(実績)20:30 RCIC停止(原子炉への注水機能喪失)
(実績)22:50 水位計復活(L2:燃料上部より約3.4mの水位)
(予測)22:50 炉心露出
(予測)23:50 燃料被覆管破損
(予測)24:50 燃料熔融
(予測)27:20 原子炉格納容器設計最高圧(527.6kPa)到達
        原子炉格納容器ベントにより放射性物質の放出

下記の資料より転載
官邸ホームページ 東北地方太平洋沖地震への対応

http://www.kantei.go.jp/jp/kikikanri/jisin/20110311miyagi/201103120030.pdf



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

情報室が引用資料として挙げている首相官邸危機管理のペーパーの日時は12日0時20分となっています。その7頁から2号炉のシュミレーションを引用しています。 しかし、1号炉の危険性もすでに指摘されています。
わたしはこれを見て、最初の警告メールを出したのです。

さてドイツ側ですが、この時点では、グリーンピースや反核医師の会など民間団体は、緊急冷却水電源遮断の報道を得て、早々とメルトダウンの可能性を指摘しています。
そして、レットゲン環境相による最初の警告の報道があったのは現地時間の11日19時02分(日本時間の12日03時02分)でした。わたしがメールを書いている時刻です。以下は南ドイツ新聞の電子版速報です:
ーーーーーーーーーーーーーー
19:02 Uhr
Angesichts der Probleme im japanischen Atomkraftwerk Fukushima hat Bundesumweltminister Norbert Rötttgen (CDU) betont, dass dort " äußerstenfalls eine Kernschmelze" droht. Dies könne bis zu drei Blöcke des AKW betreffen. "das ist eine ernste Situation"sagte Rötttgen am Freitagabend in Bonn. Die japanische Regierung würde aber derzeit alles dafür tun, die Notstromversorgung für das Kählsystem wieder in Betrieb zu bekommen. Angesichts der weiten Entfernung und des angekündigten Wetters sei im Falle einer Kernschmelze in dem japanischen Atomkraftwerk für Deutschland nicht mit radioaktiver Strahlung zu rechnen, so Röttgen.
 19時02分
日本の福島原発の問題に関してノーベルト・レットゲン連邦環境相は「同地では最悪の場合、核溶融が迫っている」と強調した。それが3基の原子炉で起こり得る。「これは深刻な事態だ」とレットゲンは金曜日の夕刻にボンで述べた。しかし日本政府は目下、冷却装置の緊急電源が再び稼働するようにあらゆる手だてをするであろう。遠距離であることと、天候予想からして日本の原発での核溶融によってドイツでの放射能汚染は想定できないとレットゲンは述べた。
ーーーーーーーーーーーーーー

この時点での正確な判断に関して、後の7月6日、レットゲン大臣はベルリンでの記者会見で、菅野幹雄日経新聞のベルリン支局長による「驚くべき早い時点での判断の情報をどこから得ましたか」との質問に答えて「あの金曜日に環境省内に設けた危機対策本部による情報です。あらゆる状況情報からして核溶融が起こりつつあることは排除できないとの判断があったのです」と述べています。
ということは、上記首相官邸に寄せられた東電などのシュミレーションとほぼ同内容の判断を環境相危機対策本部もほぼ同時並行して行っていたことになります。驚くべき危機管理能力です。

メルケル首相はこの日の夕刻、ある州選挙の応援に出かけていますが、レットゲン氏からの情報を得ています。そして翌日の12日の朝、ベルリンで1号機の爆発の映像を見て環境相の警告が現実となったことを知ります。首相が脱原発の決断をしたのは、この12日の土曜日のことでした(『世界』2011年8月号の拙稿には危機対策本部のザイラー氏の言葉にも触れています)。
また、事故直後から菅直人首相も、この原子力委員会の「最悪シナリオ」を待たずとも、最悪の判断をしていたようです。これについてはすでに書いた通りです:

29:菅直人首相の東電訓示全文・3月15日早朝/東京新聞http://tkajimura.blogspot.com/2011/09/blog-post_10.html

いずれにせよ、アンゲラ・メルケルと菅直人という日独の首相のフクシマ事故の深刻さに関する当初の状況判断は、2日ほどのズレがあるものの、ほぼ一致していたといえるでしょう。

さて、このような情報を背景として発信されたわたしの「最初の警告メール」が、現実的な判断であったことは、原発中毒者たちの「最悪シナリオ」でも裏付けられたともいえるでしょう。

1号機が核溶融による水素爆発で放射線物質を大量に放出したのは、この最初の警告メールから12時間29分後の、日本時間12日15時36分でした。

この最初の水素爆発に関して、枝野官房長官が「原子炉そのものとは確認されていないが、なんらかの爆発的な事象が確認された。総理や専門家をまじえて、情報の把握と分析など対応にあたっているところである。放射能について測定はおこなわれているところであるが、18時過ぎに新しい数字がでてきます。落ち着いて行動を」と述べ、全く事態が掌握できていないみっともない緊急記者会見があったのは、何と2時間以上を経た17時45分でした。水素爆発が確認されたのはさらに3時間後でした。
日本の原発事故への危機対策が機能不全で、周章狼狽している有り様が世界中に明らかになったのはこの記者会見が始まりでした。

これが原子力委員会の原発中毒の近藤委員長以下には「想定されていない」震災原発事故の始まりでした。いわんや、震災と津波による凄まじい被害に身体と頭が一杯の日本の住民の圧倒的な大多数が、この時点で原発事故の実情を把握することなど事実上不可能でした。したがってわたしのこの最初の警告メールは、日本で事態を把握していたごく少数者の情報に依拠した例外的なものであったことは推定できます。

 この警告によって、関東周辺の親族と友人たちの幼い子供たちが、早期に日本国外と関西方面に避難をしたこともつけ加えておきます。
さらに、クリスマスイヴに「最悪のシナリオ」のプレゼントをこっそりと贈った、原発中毒者たちの最低の姑息さについては、改めて書きます。この連中を批判し、少なくとも公職から追放しない限り、間違いなく誤ちが繰り返されるからです。

(訂正:一夜明けて読み直しますと、わたしの最初の警告メールの日本時間が夏時間で計算されており、1時間早くなっていましたので、該当部分を1時間遅れに訂正しました。読者のみなさまにお詫びして訂正します。26日朝追記)

2011年12月17日土曜日

57:野田首相の「冷温停止」は概念の乱用、放射線の排出防止がもっと大切/ドイツ専門家

今日、12月16日のドイツのニュースも朝から野田首相の「冷温停止」宣言を東京から例外なく批判的に伝えています。典型的なひとつとして、先ほどでましたシュピーゲル誌の電子版の記事の一部からドイツの専門家の見方を紹介しましょう。
破壊された原子炉で「冷温停止」を述べることは「ありえない正常化を示唆する」概念の乱用であり、安定とはほど遠いのが実情であること、それより放射線の排出防止の方がもっと大切であることが指摘されています。
野田首相による、いまだに健在な原子力村のデマに近い宣伝であることがちゃんと見抜かれています。
この宣言により、日本政府への3・11以来積もりに積もった国際的不信は確定的になることだけは間違いありません。本音では「日本政府は馬鹿者の集まりである」と思われても致し方ありません。

また、さすがに日本のメディアでも、この「冷温停止収束宣言」に対しては批判的な論調が多いようです。そのひとつ、中国新聞の論評は優れており、シュピーゲル誌を裏付ける見解です:

前のめりの政治判断 「緊急事態」続く
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201112170072.html

なお野田演説とは直接関係ありませんが、ドイツの経済紙の東京特派員が最近語った日本の体験記の昨日15日の注目すべき記事を、Eisbergさんが全文翻訳されていますので紹介します。これは特派員が本音を語ったものとしては貴重なものです。悲しいことですが実情です。ぜひ読んでください:

独ハンデルスブラット紙東京特派員のスピーチ 「原発事故後の生活」
http://d.hatena.ne.jp/eisberg/20111216/1324014227

(17日追加)一夜明けて世界中の論調が一致して批判的見方をしていることは当然とはいえ顕著です。
脱原発を確定したドイツからの批判が厳しいのは当たり前としても、原発核大国の英米仏すらそうなのです。井の中の野田ドジョウ内閣のガラパゴス化も亢進を極めつつあります。
ただ問題が深刻な核汚染であるので、笑い飛ばして済ませられないことが、世界にとっての悲劇です。
きょうのTBSのニュースがYoutubeでいまのところ見れます:
「冷温停止状態」宣言に厳しい論調も
http://www.youtube.com/watch?v=nMTtdLXYS1c

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
見出し:福島原発の冷温停止
東電には素晴らしいが、住民にはどうでもよい 

リード:日本政府の言葉によれば暴走した福島第一原発はふたたび制御下にあるとのことだ。しかしドイツの 核専門家は、状態はいつでもひっくり返りうると警告している。住民にとっては通達された原子炉の冷温停止は価値がない。

Kaltabschaltung im AKW Fukushima  
Schön für Tepco, egal für die Bevölkerung
Nach den Worten der japanischen Regierung ist das havarierte AKW Fukushima Daiichi wieder unter Kontrolle. Deutsche Nuklear-Experten aber warnen: Die Situation kann jederzeit wieder kippen. Und für die Bevölkerung ist die verkündete Kaltabschaltung der Reaktoren wertlos. 

(野田首相の主張説明の部分は省略)

ーーーーこの専門家の間で「冷温停止」と呼ばれていることを日本政府は重要な段階として祝っている:すなわち原子炉内の温度が摂氏100度以下に低下。それにより原子炉格納容器内の放射性物質は安定し、論理的には制御できない連鎖反応(再臨界・訳者)は起きえないというのだ。

しかしドイツの原子炉安全協会(GRS)の専門家は、この場合での冷温停止の概念の扱い方を批判する:この概念は、正常な(原子炉・訳者)稼働に適用されるものであって、カタストロフィーの場合には用いられないとスポークスマンはシュピーゲル誌に語った。「これは正常化を示唆していますが、しかしフクシマにはそれは存在していません」とスヴェン・ドクテル氏は述べる。

Diesen in Fachkreisen genannten "cold shutdown" feiert Japans Regierung als wichtigen Durchbruch: Die Temperatur im Innern der Reaktoren ist unter 100 Grad Celsius gefallen. Damit ist das radioaktive Material in den Reaktorkammern stabil und es kann theoretisch zu keinen unkontrollierten Kettenreaktionen mehr kommen.

Experten der deutschen Gesellschaft für Reaktorsicherheit (GRS) aber kritisieren den Umgang mit dem Begriff der Kaltabschaltung. Dieser sei für den Normalbetrieb vorgesehen - und nicht im Falle einer Katastrophe, erklärte der Pressesprecher im Gespräch mit SPIEGEL ONLINE. "Das suggeriert eine Normalität, die in Fukushima aber nicht gegeben ist", sagt Sven Dokter.

(冷温停止の国際的概念規定の説明は省略)

ーーーーーこれより前にオーストリアの環境保護団体「グローバル2000」の原子炉専門家であるラインハルト・ウーリッヒ氏は原子炉内の温度は実際には基本的にもっと高温でありうるとし、「ここで冷温停止を語ることは、意図的な嘘と紙一重だ」と述べた。溶融した燃料は原子炉圧力容器の底を突き抜け、塊となって格納容器の底に横たわっている。推定ではそこではまだ3000度であるという。

Zuvor hatte ein Atomexperte der österreichischen Umweltorganisation Global 2000 erklärt, dass die Temperaturen in den Reaktoren in Wahrheit wesentlich höher sein dürften. "Hier von Kaltabschaltung zu sprechen grenzt an eine bewusste Lüge", sagte Reinhard Uhrig. Die geschmolzenen Brennelemente hätten sich durch den Boden der Reaktordruckbehälter durchgebrannt und lägen nun als Klumpen auf dem Boden der Umhüllung. Dort wiesen sie weiter Temperaturen von schätzungsweise 3000 Grad auf.

小見出し:警告解除には早すぎる
Zu früh für eine Entwarnung


しかしGDSの専門家はこのシナリオはあり得ないとする:3000度の高温では燃料は液状であるはずで、とても「塊」と言うことは出来ない。加えて100度以上であれば引き続き水蒸気が原子炉から立ちの登り、高い放射線量が測定されるはずであるからだ。

 「提出されている温度値からすれば、現状では原子炉内でより大きな範囲での核分裂は起こらないと見なせるだろう。」とGRSのスポークスマンは述べる。その場合はクセノン133やヨード131などの核分裂物質がより大量に測定されなければならない。「この安定した状態はしかし、事情によっては急速に変化しかねません」とドクテル氏。重ねての地震、新設された冷却装置の停止など、これらの多くの想定されるシナリオによって再び危険な状態が起こりえるからだ。

Die Experten der GRS halten dieses Szenario jedoch für ausgeschlossen: Bei einer Temperatur von 3000 Grad könne man längst nicht mehr von einem "Klumpen" sprechen, denn dann wären die Brennelemente flüssig. Zudem würde bei Temperaturen über 100 Grad weiter Wasserdampf über den Reaktoren aufsteigen - und erhöhte Radioaktivität messbar sein.

"Bei den vorliegenden Temperaturwerten kann man davon ausgehen, dass es momentan in den Reaktoren nicht in größerem Umfang zu Kernspaltungen kommt", sagt der GRS-Pressesprecher. In so einem Fall müssten auch in größere Mengen Spaltprodukte wie etwa Xenon 133 oder Iod 131 gemessen werden. "Der stabile Zustand kann sich unter Umständen aber schnell ändern", sagt Dokter. Ein weiteres Beben, das Ausfallen der neu eingerichteten Kühlsysteme - es seien viele Szenarien vorstellbar, die erneut zu einer kritischen Situation führen könnten.


東電の技術者たちにはこれが基本的な一歩であるとしても、このことは避難地域内にかつて住んでいた何万の人間、また現在も原発廃墟のまわりで生活し続けている人間にはほとんど意味をなさないであろう。ひとびとは被曝におびえ、この地域の汚染された果物、野菜、米や肉におびえているのである。

したがって、冷温停止よりもさらなる放射能の排出を防ぐことのほうがより大切である。今もなお原子炉圧力容器の割れ目や穴から、放射性の水が漏れ出している。これまでの数ヶ月の間に東電は溜まり続けるため放射能の水を海に放出しなければならなかった。


東電の計画では2012年には4号機の貯蔵プールから燃料を運び出すことが見込まれている。この原子炉はカタストロフィーの時点では停止中であった。にもかかわらず燃料を冷却のために貯蔵していたプールの天井が破壊されたのだ。これによりここの状態は安全からはほど遠い。「搬出が実際に成功するならば、安全性の面では、この方がもっと重要な大変な成果です」とドクテル氏は述べた。

Was für die Tepco-Techniker ein wesentlicher Schritt sein mag, dürfte für die Tausenden Menschen, die einst innerhalb der Sperrzone wohnten, und jene Menschen, die jetzt noch im Umkreis der AKW-Ruine leben, kaum eine Rolle spielen. Sie haben Angst vor der Strahlung und vor kontaminiertem Obst, Gemüse, Reis oder Fleisch aus der Region.

Wichtiger als die Kaltabschaltung der Reaktoren wird es also sein, das weitere Austreten von Radioaktivität zu verhindern. Doch immer wieder sickert strahlendes Wasser durch Risse oder Löcher aus den Reaktordruckbehältern. In den vergangenen Monaten musste Tepco angesichts der schieren Massen radioaktives Wasser ins Meer ableiten.

So ist im Fahrplan Tepcos wohl vorgesehen, 2012 die Brennelemente aus dem Lagerbecken des Reaktors 4 abzutransportieren. Zwar war zum Zeitpunkt der Katastrophe dieser Reaktor abgeschaltet. Dennoch wurde das Dach der Becken, in dem die Brennelemente zur Kühlung in einem Wasserbasin lagern, zerstört. Damit ist die Lage dort alles andere als sicher. "Würde der Abtransport tatsächlich gelingen", so Dokter, "wäre das in Puncto Sicherheit ein sehr viel wichtigerer Erfolg."

 原文は:

http://www.spiegel.de/wissenschaft/technik/0,1518,804157,00.html

(訳責:梶村太一郎)

2011年12月12日月曜日

56:国会事故調査委員会と高木仁三郎さんの想い出

 昨日、定期的に送られてくる信州の田中洋一さんの「伊那谷から」の報告が届き、素晴らしい内容なので読者のみなさまにも紹介したく、今回も著者のご承諾を得て全文を掲載させていただきます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊那谷から 154        (2011年12月10日)

 東京電力福島第1原発の事故原因の解明に取り組む国会の事故調
査委員会が8日発足した。
原因はこれまでの報道で何となく分かった気になっていたが、そう
ではないと思い知らされた。政府とは独立の立場で、国会が独自に
事故調を設置するのは今回が初めてということも知らなかった。来
年6月までに報告書をまとめる。
 事故調は10人の民間委員から成る。報道ではノーベル化学賞の田
中耕一さんが注目されたが、原子力は専門外だ。私が事故いらい注
目している方々が3人いる。石橋克彦さんは地震学者。地震列島に
原発を造る危険性を以前から指摘し、放射能災害と通常の震災とが
複合・増幅し合う「原発震災」を強く警告してきた。2005年には衆
院予算委員会の公聴会でも同じ指摘をした。公の場での発言は残念
ながら生かされず、その6年後に現実のものとなる。
 田中三彦さんは科学ジャーナリスト。この秋、信州白馬の市民集
会で講演を聞いた。事故の概要はこうだ。炉心の冷却が利かなくな
って、燃料棒の温度が上昇し、内部からヨウ素やセシウムなど放射
性物質が溶け出した。それでは、冷却を止めた原因は何か。東電や
原子力安全・保安院は、津波の衝撃で配管が壊れたため、と説明し
ている。だが田中さんは津波以前に地震の揺れで、複雑な配管が壊
れたからではないか、と考えている。冷却水の水位や原子炉の圧力
の経時変化から、可能性が推測されるそうだ。
 原因が津波でなく地震と判明すれば、稼働中の原発への影響はは
るかに大きい。中部電力浜岡原発などの津波対策の強化だけでなく、
原発の耐震性そのものを見直す必要が出てくるからだ。
 「真相は原子炉に人が入って、圧力容器や配管を一つひとつ見て
回らなければ分からない」と田中さん。もちろん、それまでに10年、
20年とかかる。今の段階では、原因は津波とも地震とも特定し切れ
ないという。「だからこそ、東電や政府は今、根拠となるデータを
きちんと示すべきだ」と力説した。事故調は国政調査権を持つ。デ
ータを原子力ムラから引き出して、解明を進めて頂きたい。
 5月の衆院科学技術・イノベーション推進特別委員会で、放射線
の危険性について語った崎山比早子(ひさこ)さんにも触れたい。
いわゆる安全基準は社会的・経済的な事情から決められたと説明し、
「特に妊婦や子どもは放射線を浴びないように、移住も含めてあら
ゆる努力をすべきだ。国会議員は力を尽くしてほしい」と訴えた。
放射線医学の専門家だが、科学・医学の知見を振り回さないのは、
市民科学者の育成に取り組む高木学校のメンバーだからか。
 その高木学校は、反原発運動を支えて2000年に他界した高木仁三
郎さんが提唱した。彼こそ最も事故調に加わるべき方だった。

  田中 洋一
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
田中さんのコラムは6月にも転載させていただきました;
http://tkajimura.blogspot.com/2011/06/blog-post_12.html
  
 拝読し、日本の国会てもようやくまともに事故の調査か出来るかもしれないと思い、多少の期待をもたらす朗報として受けとめたいと思います。 それよりもこの報告の終わりの高木仁三郎さんが「彼こそ最も事故調に加わるべきであった」との記述を読み、おもわず涙がでました。わたしも、2000年の10月に高木さんがわずかか62歳で亡くなられたあと非常に喪失感が大きく、何かにつけて高木さんの想い出を書いたものです。 しかし、今年の福島の事故に面しては、格別に高木さんのことが強烈に思い出されました。 ずば抜けた能力と行動力で、日本の反原発運動の先頭に立ち、大きな業 績を残され、影響力のあった人物でした。だから今年は日本でだけでなく海外でも今年は彼を惜しむ声が強いのです。このプロブでも紹 介しました 環境省原子炉安全委員会のミヒャエル・ザイラー氏や、放射線防護 協会のプルークバイル博士などとも合えば、高木さんの話が出るのです。
「高木さんが今いてくれたら」と思う人は非常に多いのです。田中さんのコラムを読んでまた哀しくなったのはそのせいです。高木さんの元気な頃のドイツの盟友であったこのふたりの活躍ぶりを側で見るたびに、またこのような日本からの報道に接するたびに、避け難くこの思いはつのります。なぜならもしお元気であれば、今頃は一 日も早い日本の全核施設の廃止に向け、先頭に立って政府を突き上げ、目を奪うような大活躍をされていることは間違いないと思うからです。

そこで今回は、あまり知られていない高木さんのプライベートな一面を想い出として書いておきます。 前55回のプルークバイル氏の勧告にも「日本の科学者に市民の側に立つように」との呼びかけがありましたが、これは氏がよく知る高木さんが主張し、生き様として貫いた「市民科学者であって欲しい」との 要請なのです。亡くなる一年前の1999年9月に出された岩波新書は『市民科学者として生きる』です。本書は重病を押して彼が書き残した自伝です。未見の方には是非一読を勧めます。
贈呈してくださったこの著書には、原子力情報資料室の仲間からの添え書きとして「東海の臨界事故で資料室はフル稼働です。高木さんも復活して くれていますが、お身体が心配です」とあります。  
高木仁三郎さん ベルリンで1994年12月

 この写真は高木さんの普段着のものとしてめづらしいかもしれません。いまからちょうど17年前の12月です。クリスマス前のドイツは夜明けが遅く、まだ窓外が暗い小さな台所で、登校前の小学生の息子と一緒に朝食をとられている写真です。この頃の大変お元気な高木さんは、ベルリンでの学会などのあで、気のおけない市民運動の仲間である我が家に、二三日ほど転がり込んで骨休みをされたことが何度かあったのです。 こんなときの高木さんは、いつもの難しい表の顔とは打って変わって、個人的な話もよくされたものです。あるとき、この小学生を相手に「わたし の息子はね、文科系なのに何を考えたのか航空会社のパイロットになりたいと言い出してね」と、そのころ飛行機の模型に凝っていた息子の興味を引いて、「そんな被曝の多い仕事はよせと言ったらね、『オヤジはもっと危険なことやっただろう』と反論されてすっかり参ったよ」とみんなを爆笑させたことがありました。パイロットの被曝が危険なことや、若い頃には実験用原子炉の一時冷却水をバケツで汲み出したりした「バカなこと」について判り易く話されました。 
考えてみるとわたしの息子はまだ出来ていなかった「高木学校」の最初で最年少の生徒であったのかもしれません。高木さんが亡くなってから訊ねてみると「あのおじさん良く覚えているよ。その話は昼飯にお袋の作った蕎麦を食いながら聴いた」と記憶はわたしよりはるかに確かでした。  
 まだいくつかべルリンでの高木さんのことでは、もっと重要なこともあるので順次書き残しておこうと思います。いずれこれらを含めブログで改めて書たいと考えています。

  さて、2000年6月のシュレーダー政権の「脱原発合意」の後の8月に、わたしは東京のご自宅で闘病中の高木さんをお見舞に訪ねました。 この訪日の少し前に「赤緑政権のこの脱原発はゴアレーベンの最終処理場試掘中止についても中途半端であり、裏切りだ」と大いに怒ったゴアレーベンの住民たちが、トラクターを連ねて大挙してべルリンへの政府中枢へデモをかけました。その時はまだまだ大変にお元気てあった長老のマリアンネ・フリッチェンさが大演説をやったものです。見ればトラクターに兵糧として持って来たジャガイモ袋が積んであります。反原発運動のロゴのあるその麻袋をひとつマリアンネさんからもらいました。この袋を高木さんへのお土産にしたのです。それをお渡しながら高木さんに当時のドイツの政治情勢と元気な反原発市民運動の様子を報告して、大いに笑談したものです。高木さんの癌も末期にさしかかり、まもなくホスピスに移られる少し前のことでした。
そのときいきなり「病気の原因が若い頃の被曝であると考えていますか」と問いますと、ゆっくりとした「それだけはね、科学者としては言えないのだよ」と緊張した声が返ってきました。笑顔が消え、わたしを見つめる悲しみをたたえた彼の表情と眼差しを決して忘れないでしょう。自分にこそ厳しい市民科学者の重い言葉であったのです。  

以下は、阪神大震災の後に高木さんが専門誌に寄稿された論文です。15年前にすでに現在の事態の到来と、今認識を怠ると、これから起こる未曾有の破局事態も完全に見通されていることが、この短い論考でもよくわかります。
今回初めて国会に設置される事故調査員会での、事態認識の前提となる見解になってほしいものです。そうなれば高木さんの笑顔もよみがえるでしょう:

『核施設と非常事態 —— 地震対策の検証を中心に—— 』 「日本物理学会誌」 Vol.50 No.10, 1995 
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0002195281

2011年12月7日水曜日

55:ドイツ放射線防護協会から日本の政府への勧告と、市民、科学者への呼びかけ/追加あり

この55回のお報せは、たちまち大きな反響と関心が特に専門家の間であるようですので、以下英文資料等についていくつかの追加を青字でいたします。議論の参考にしていただければ幸いです(12月8日追加)。
ーーーーー 
訂正とお詫び:
以下の翻訳の下訳について齟齬がありましたので訂正します。わたしは翻訳が松井英介氏から送られて来て「間違いあれば指摘して下さい」とのことでしたので、またゴアレーベン闘争が終われば翻訳紹介したいと考えていましたので、これ幸いと大幅に赤を入れて数回やり取りをした上で「松井氏との共訳による定訳」として公表しました。
ところが、実は送られて来た下訳とした翻訳が松井氏のものではなく、彼に送られて来た他の方の翻訳を松井氏が手直しされたものであることが先ほど判明しましたので、氏名不詳の元の翻訳者にお詫びし、また感謝いたします。 加えて読者のみなさまににもこの点をお詫びして訂正いたします。

先ほど判明したのは、この翻訳の下訳としたものはEisberg さんの友人の方によるものであるとのことです:
http://d.hatena.ne.jp/eisberg/

事実であれば、あってはならないことですので、ご両人にお詫びいたします。またドイツ語に堪能な専門医の松井氏の翻訳と思い込まされた立派な元の翻訳者の方には感謝いたします。ありがとうございました。(12月9日追加)
さきほど、Eisbergさんから、また元訳をなさったご本人からも、寛大なご理解をいただく連絡があり感謝とともに安心いたしました。あわや博士論文盗用でドイツ国防大臣を罷免されたGuttenberg男爵の指導教授とよく似た大恥をかくところでした。
読者のみなさまにも改めてお詫びし、ご理解をお願いいたします。(12月9日昼追加)

以下が本題です:

ーーーーーーーーーーーー
ドイツの放射線防護協会の会長名の11月27日の日本の政府、市民、科学者へ宛てた緊急プレスリリースの定訳が出来ましたので以下お報せします。

日本政府の悲惨かつ無能力ともいえる間違った放射線防護政策、とりわけ妊婦と幼児のいる家庭の移住、厳格な食品検査、全国に汚染を計画的に広げる瓦礫処理の誤りなどについて、深刻な危機感をもち、学問的裏付けと長い経験と批判力を備え、経験を積んだドイツの友人からの日本の住民への貴重な警告と呼びかけです。(これがどれほどの裏付けがあるかについては原注の追加解説で示しておきました)

人類史上最悪の自滅行為である「フクシマ」の惨禍からこれから少なくとも数世代/孫と子供の世代は逃れ得ないことが運命づけられてしまった日本の市民のみなさまにはこの警告と呼びかけに真摯に耳を傾けていただき、まずはみなさまが置かれている放射能汚染の事実を直視していただきたいとおもいます。ここには目に見えないが確実にそこにある放射能の存在を捕らえて、不安に打ち克つ手がかりとなるいくつかのヒントが提示されています。

本文は短いものですが基本的な問題点が踏まえられていますので、翻訳に当たっては同協会の協力を得て、主張を裏付ける調査研究の出典もつけ加えました。特に心ある専門家のみなさまの参考としてくだされば幸いです。(梶村)

ドイツ語の原文は" Strahlentelex"の電子版 12月1日号の4頁の右側の囲み記事に掲載されています:
www.strahlentelex.de/Stx_11_598_S01-05.pdf


 ーーーーーーーーーーーー

 放射線防護協会 (訳注1)                                 

Dr. セバスティアン・プルークバイル
 
   プレスリリース          2011年11月27日 ベルリン

放射線防護協会は呼びかける:
福島の原子炉災害の後も放射線防護の基本原則を無視することは許されない。
 

放射線防護協会は問う:
日本の住民は、核エネルギー利用から結果するどれだけの死者と病人を容認したいのか?



放射線防護における国際的な合意では、特定の措置を取らないで済ませたいが為に、あらゆる種類の汚染された食品やゴミを、汚染されていないものと混ぜることによって特定の放射線量を減らし「危険ではない」ものにすることを禁止しています。日本の官庁は現時点において、食品の分野、また地震と津波の被災地から出た瓦礫の分野で、この希釈(きしゃく)禁止に違反をしています。ドイツ放射線防護協会は、この「希釈政策」を停止するよう、緊急に勧告します。さもなければ、日本の全ての住民が、忍び足で迫ってくる汚染という方式で、第二のフクシマに晒(さら)されることになるでしょう。これによって、明確な空間的境界を定め、安全に設置され、良く監視された廃棄物置き場を利用するより、防護はさらに難しくなります。「混ぜて薄めた」食品についてもそれは同じことが言えます。現在のように汚染された物質や食品を取り扱っていくと、住民の健康への害をより拡大することになります。

現在日本では、汚染物質が全県へ分散され、焼却や灰による海岸の埋め立てなどが始められようとしていますが、放射線防護の観点からすれば、これは惨禍であります。これでは、ごみ焼却施設の煙突から、あるいは海に投入される汚染灰から、これらの物質に含まれている放射性核種が計画的に環境へと運び出されてしまいます。放射線防護協会は、かくなる諸計画を中止するよう緊急に勧告します。

ドイツでの数々の調査では、チェルノブイリ以降、胎児や幼児が放射線に対し、それまで可能だとされていた以上に大変感受性が強いことが示されています。チェルノブイリ以降の西ヨーロッパでは、乳児死亡率、先天的障害、女児の出生率の減少などの領域(訳注2)で非常に著しい変化が起こっています。すなわち、中程度、さらには非常に低度の線量の増加に何十万人もの幼児が影響を受けているのです。ドイツの原子力発電所周辺に住む幼児たちの癌・白血病の調査(原注:KiKK研究)も、ほんの少しの線量増加でさえ、子供たちの健康にダメージを与えることを強く示唆しています。
放射線防護協会は、少なくとも汚染地の妊婦や子供のいる家庭を、これまでの場合よりももっと遠くへ移住できるよう支援することを緊急に勧告します。協会としては、子供たちに20ミリシーベルト(年間)までの線量を認めることは、悲劇的で間違った決定だと見ています。

日本で現在通用している食物中の放射線核種の暫定規制値は、商業や農業の損失を保護するものですが、しかし住民の放射線被害については保護しません。この閾値は日本政府が、著しい数の死に至る癌疾患、あるいは死には至らない癌疾患が増え、その他にも多種多様な健康被害が起こるのを受容できると表明したものに等しいものであると放射線防護協会は強く指摘します。いかなる政府もこのようなやり方で、住民の健康を踏みにじってはならないのです。
放射線防護協会は、核エネルギー使用の利点と引き換えに、社会がどれほどの数の死者や病人を許容するつもりがあるのかについて、全ての住民の間で公の議論が不可欠と考えています。この論議は、日本だけに必要なものではありません。その他の世界中でも、原子力ロビーと政治によって、この議論はこれまで阻止されてきたのです。

放射線防護協会は、日本の市民の皆さんに要望します。できる限りの専門知識を早急に身につけてください。皆さん、どうか食品の暫定規制値を大幅に下げるよう、そして厳しい食品検査を徹底させるように要求してください。既に日本の多くの都市に組織されている独立した検査機関(訳注3)を支援してください。

放射線防護協会は、日本の科学者たちに要望します。どうか日本の市民の側に立ってください。そして、放射能とは何か、それがどんなダメージ引き起こしえるかを、市民の皆さんに説明してください。

放射線防護協会
会長   Dr. セバスティアン・プルークバイル

この翻訳は、blaumeise.leinetalさんの翻訳を梶村太一郎が手直ししたものです/12月13日訂正)

(訳注1)ドイツの放射線防護協会の歴史と活動それを担う代表的な人々について、また松井医師については第38回を参照:
日独の脱原発を実現する人々:松井英介医師とドイツ放射線防護協会
http://tkajimura.blogspot.com/2011/10/blog-post_09.html

なを同協会の会長の姓の日本語表記に関しては、彼がこの秋に日本を訪問して以来の報道などで、かなり混乱しています。日本のメディアでは欧米の固有名詞を英語読みにしてカタカナ表記し、本人が聴いても理解できないことがしばしば起こります。Pflugbeil氏のPflugは「プルーク/意味は『鋤』」、Beil は「バイル/意味は『鉈』」です。したがって表記は「プルークバイル」としました。この姓の原意は「鋤鉈/すきなた」です。根気づよく核汚染と闘い続ける氏にぴったりです。

(訳注2)西ヨーロッパ各国での調査研究では、チェルノブイリ以降、例えばそれまでの男女の胎児の比率が女子の目立った減少として確認されている。2010年。
出典:
Von Dr. Hagen Scherb, Epidemiologe, Institut für Biomathematik und
Biometrie am Helmholtz Zentrum München:
www.strahlentelex.de/Stx_10_558_S01-04.pdf

(原注)ドイツ連邦環境省の原子炉安全及び放射線防護庁による委託研究:
「原子力発電所周辺における幼児発癌に関する疫学的研究」2007年。
出典:KiKK-Studie:
Peter Kaatsch, Claudia Spix, Sven Schmiedel, Renate Schulze-Rath,
Andreas Mergenthaler, Maria Blettner: Umweltforschungsplan des
Bundesumweltministeriums (UFOPLAN), Reaktorsicherheit und
Strahlenschutz, Vorhaben StSch 4334: Epidemiologische Studie zu
Kinderkrebs in der Umgebung von Kernkraftwerken (KiKK-Studie), Mainz
2007.



これは2003年から4年をかけた非常に膨大(330頁)な研究ですが、冒頭に簡単な英文サマリーもあります。

(訳注3)
ドイツ放射線防護協会は、チェルノブイリの直後からドイツ全国で盛んになった市民による、独立した「市民放射線測定所」設立の経験に基づき、日本全国の47都道府県で、主に食品検査に必要なガンマー線測定器を寄贈する募金を始めており、11月に最初の送金をしています。
日本の市民放射線測定所:
http://www.crms-jpn.com/


原注の追加解説
ドイツの22の原子力発電所(16地域)周辺5キロメートル内では5歳以下の幼児の発癌、特に白血病の顕著な増加が、それを越える距離よりも全ての16地域で認められると結論された当研究に関して、放射線防護庁による研究の背景と評価、その他の関連英文資料も同庁のサイトにあります:
http://www.bfs.de/en/kerntechnik/kinderkrebs/kikk.html

以下簡単に要旨をまとめておきます。 
この研究は1980年代の後半に英国のイングランドとウエ−ルズの核施設の周辺10マイルで幼児の白血病が増加しているとのふたつの研究が発表されて以来、ドイツでも1992年と97年にマインツ大学の小児癌登録(DKKR)によって調査が行われていました。
これらよっても小児癌発生頻度が原発との距離にあることが示され多くの論議が行われていました。それを踏まえて、同庁に設置された業績のある13名の専門家委員会により厳密で新たな調査方法で行われたのがこの研究です。この研究の実施は公募の上でマインツ大学医学部の小児癌登録部門に委託されました:
http://www.kinderkrebsregister.de/
 この研究に関する同大学の資料は:

研究は対象が膨大であるため4年をかけ、1980年から2003年の間に発病した原発所在地16地域の周辺に居住していた5歳までの幼児1592人の症例に加え、さらに比較コントロールするため同時代に同地域に居住していた発病のない同年齢で同性の幼児4735人を住民登録から抽出し、合計6327人を対象に調査を行っています。この全て幼児の原子力発電所からの居住地の距離は25メートル単位で特定されています。またドイツ全体の幼児癌の発生とも比較しています。

証明された主な結論は:
・原発から5キロメートル以内ではそれを越える地域と比較して顕著な癌の発症の増加があり、全ての腫瘍は基本的に白血病が原因である。
・原発に居住地が近づくほど発癌の危険が高まる。

この調査で、確定したことは「原発に近いほど幼児の発癌は増加する」ということだけです。誤解があってはならないのは、この調査は発癌の原因は研究対象ではないということです。
これまで公表され記録されている原発からの外気へ流出した核種の統計を根拠にしては、上記のような現象は医学的に証明できません。これほどの癌発病が可能になるのは、現在の学問水準では統計で得られている原発から外気に漏れた放射性物質が、1000倍から10000倍であれば、原因として特定できるとされているからです。
以上が簡単な要旨です。

したがって、この研究の以降は、なぜこのような現象が起こるのかの追究が研究者の間で盛んになっています。最近の一例としては、専門委員のひとりであったケルプライン博士(Dr.Körblein)による、この9月にある原発の燃料交換時期に排出線量が1000倍になった事実を指摘し、これが原因ではないのかとの指摘があります:
http://www.strahlentelex.de/Stx_11_588_S06-08.pdf

以上の研究の結果としていえることは、放射線防護委員会のこの勧告と呼びかけの背景には、少なくともドイツにおける最先端の研究が背景としてあるということです。日本では知られていても無視されているか目隠しされている貴重な情報なのです。

いずれにせよ、原発周辺、特に5キロメートル以内では幼児の白血病が異常に多いことは例外無く断定できるが、それと原発との科学的因果関係は現在の学問水準では立証できないというのが現状です。
勧告にある「ほんの少しの放射線増加でさえ、子供たちの健康にダメージを与えることを強く示唆しています/nachdrücklich hindeuten」という断定を避けながらも強調されている表現の背景がこれです。
つまり低線量の内部被曝の影響については、まだまだ学問的に解明されていないことが多くこれからの課題であることがこれからも判ります。

放射線防護協会のホームページは、これらの長年の欧米の研究や論争の資料が豊富に蓄積されていますので専門家のみなさまの参考としていただきたいと思います:
 疫学については:
www.strahlentelex.de/Epidemiologie.htm
 幼児の癌については:
 www.strahlentelex.de/kinderkrebs_bei_atomkraftwerken.htm

また、この研究はこのブログでも以下で紹介しました放射線防御庁のケーニッヒ長官のイニシアティヴで始められました。そしてプルークバイル博士は専門家委員会に参加したNGOのふたりの委員の内のひとりであったことも指摘しておきます。

17:ドイツ脱原発法施行・国内放射線量測定値情報公開について
http://tkajimura.blogspot.com/2011/08/blog-post_03.html
52:ドイツ核廃棄物最終処理施設の選定、振り出しに戻す合意
http://tkajimura.blogspot.com/2011/11/blog-post_12.html

(12月8日追加、一部は10日)